2026.06.23

社内研修だけでは社員が育たない?中小企業の人材育成に「他流試合」が必要な理由

社内研修やOJTを行っているにもかかわらず、「社員の意識がなかなか変わらない」「主体的に動いてくれない」と感じることはないでしょうか。

特に中小企業では、人材育成に大きな予算をかけることが難しい場合もあります。

外部研修を何度も受けさせる余裕がない。

専任の教育担当を置くのも難しい。

だからこそ、社内研修や日々の業務を通じて学ぶことを中心に、人材育成を進めている企業は多いはずです。

もちろん、研修は人材育成の重要な土台です。

現場で実務を覚え、上司や先輩から直接学べることは、社員の成長に欠かせません。

一方で、社内研修だけで人材育成を完結させようとすると、社員の視野が社内に閉じてしまうことがあります。

長く同じ環境にいると、自社のやり方や価値観が“当たり前”になり、自分の立ち位置を客観的に見る機会が少なくなるためです。

そこで取り入れたいのが、社外の人や異なる価値観に触れる「他流試合」です。

本記事では、社内研修だけに頼る人材育成の限界と、中小企業でも始めやすい外部の学びの取り入れ方について解説します。

1.  人材育成で社内研修だけに頼るリスク

人材育成と聞くと、多くの企業ではまず社内研修を思い浮かべるのではないでしょうか。

社内研修やOJTは、社員に必要な知識やスキルを身につけてもらうための代表的な育成方法です。

自社の仕事内容や流れを覚えるには、非常に有効です。

特に中小企業では、限られた人数で業務を回していることも多く、現場で教えながら育てる研修システムは、無理なく始めやすい方法といえます。

ただし、社内研修だけで社員の成長を完結させることには限界があります。

同じ組織の中で社内研修を続けていると、自社独自のやり方や判断基準が強くなります。

それは企業文化の浸透ともいえますが、外部の基準との違いに気づきにくくなる面も出てくるでしょう。

たとえば、次のような状態です。

・「うちの会社ではこれが普通」と思い込み、他社のやり方を知らない

・社内では評価されているが、外部では通用するか分からない

・社員本人が、自分の強みや課題を客観的に把握できていない

・上司や先輩も、自社の基準だけで育成してしまう

こうした状態が続くと、社員は今の環境に慣れすぎてしまいます。

大きな不満があるわけではないものの、成長への危機感や前向きな挑戦意欲が生まれにくくなることもあります。

社内研修は人材育成の大切な土台です。

しかし、社内の経験だけでは見えないこともあります。

社員の視野を広げるには、社外の人や価値観に触れる機会も必要です。

2. 社内の“当たり前”が、社員の成長を止めてしまうことも

社員がなかなか成長しないとき、つい「本人の意欲が足りない」「もっと主体的に動いてほしい」と考えてしまうことがあります。

もちろん、本人の意欲も大切です。

しかし、人材育成がうまく進まない原因は、社員本人だけにあるとは限りません。

社内の環境に慣れすぎていることで、自分の現在地が見えにくくなっている場合があります。

長く同じ会社で働いていると、自社の制度、人間関係、仕事の進め方に慣れていきます。

これは悪いことではありません。

安心して働ける環境があるからこそ、社員は日々の仕事に集中できます。

一方で、外と比べる機会が少ないと、自社の良さにも、自分の課題にも気づきにくくなります。

たとえば、社内では「まだまだ」と思っていた社員が、外部の人と話す中で「自社の教育体制は意外と整っている」と気づくことがあります。

反対に、社内では問題なく仕事ができていると思っていた社員が、他社の同世代の話を聞いて「もっと学ばなければ」と感じることもあります。

このように、外と比べることで初めて、自社の良さや自分の課題が見えてくることがあります。

人材育成では、知識やスキルを教えるだけでなく、社員が自分の立ち位置を理解する機会をつくることも重要です。

自分がどのような環境で働いているのか。自分の力はどこまで通用するのか。次に何を伸ばすべきなのか。

こうした問いに向き合うことで、社員の意識や行動が変わるきっかけになります。

3. 外で学び、自社を見直す機会「他流試合」

そこで有効なのが「他流試合」です。

ここでいう他流試合とは、社外の同世代、同業種・異業種の人たちと交流し、自分や自社の立ち位置を客観的に見つめ直す経験のことです。

たとえば、次のような機会が他流試合になります。

・自治体や商工会議所などが主催する勉強会

・業界団体の交流会

・外部講師による少人数研修

・異業種の若手社員との交流会

・同じ立場の管理職が集まる勉強会

・取引先や地域企業との情報交換の場

高額な研修である必要はありません。人材育成の目的に合わせて、社員が社外の人と接し、自社とは違う考え方や働き方に触れる機会をつくることが大切です。

社内研修では、日々の業務に必要な知識やスキルを身につけます。

一方、他流試合では、自分の考え方や仕事への向き合い方を見直すきっかけを得られます。

社内では評価されていたことが、外部ではまだ十分に通用しないと気づくこともあります。

逆に、外に出ることで「自社は意外としっかりしているんだな」「今の環境は恵まれているのかも?」と感じることもあります。

他流試合は、社内研修を否定するものではありません。

むしろ、社内研修を補う人材育成の機会です。

社内で実務を学び、社外で視野を広げる。

この両方があることで、社員の成長はより深まりやすくなります。

4. 他流試合が人材育成にもたらす3つの変化

他流試合には、社員の意識や行動に変化を生む効果があります。

ここでは、主な効果を3つに分けて見ていきます。

4-1. 自社の良さに気づき、働く納得感が高まる

外に出ることで、普段は当たり前だと思っていた自社の良さに気づくことがあります。

たとえば、上司が丁寧に教えてくれること。

困ったときに相談しやすいこと。

未経験でも任せてもらえる仕事があること。

社内では当然のように感じていたことが、他社の話を聞くことで「実は恵まれていた」と分かることがあります。

これは、社員にとって大きな気づきです。

会社への不満ばかりが強くなっているときも、外部の人と話すことで見え方が変わることがあります。

「自社にも良いところがある」「今の環境をもっと活かしたい」と感じられれば、働く姿勢にも前向きな変化が生まれます。

人材育成では、社員に自社への理解や納得感を持ってもらうことも大切です。

他流試合は、そのきっかけになります。

4-2. 自分の課題や伸びしろが見え、成長意欲につながる

他流試合では、自分の課題にも気づきやすくなります。

社内だけで働いていると、自分の力がどの程度なのか分かりにくいものです。

しかし、社外の同世代や同じ立場の人と話すと、自分との違いが見えてきます。

「同じ年齢でも、ここまで考えて仕事をしている人がいる」

「他社の若手は、こんな改善提案をしている」

「自分はまだ目の前の業務だけで精一杯だった」

こうした気づきは、ときに小さなショックを伴うかもしれません。

しかし、その揺らぎが成長のきっかけになります。

上司から何度言われても変わらなかった社員が、外部の人との出会いをきっかけに変わることもあります。

社内の言葉では届かなかったことが、社外の刺激によって届く場合があるのです。

特に若手社員や中堅社員にとって、他社の人と比較する経験は、自分の伸びしろを知る機会となるでしょう。

4-3. リーダー層・幹部候補に役割の覚悟が生まれる

他流試合は、若手社員だけでなく、リーダー層や幹部候補にも有効です。

管理職やリーダーになると、社内では率直な指摘を受けにくくなることがあります。

部下からは遠慮され、上司からも細かな指摘を受ける機会が減る。

そうなると、自分の課題に気づく機会も少なくなります。

外部の管理職や経営者と話すことで、自分の視野の狭さや経験不足に気づくことがあります。

反対に、自分が積み重ねてきた経験の価値に気づくこともあります。

リーダー層や幹部候補に必要なのは、知識だけではありません。

自分の役割を引き受ける覚悟や、組織全体を見る視点も求められます。

他流試合は、その覚悟を育てるきっかけになるでしょう。

5. 外部研修は参加後が重要。人材育成につなげる振り返りの工夫

他流試合は有効な人材育成の機会ですが、外部研修や交流会に参加させるだけでは十分ではありません。

「良い話を聞いた」「刺激になった」で終わってしまうと、日々の行動はなかなか変わりません。

せっかく外部で学んでも、職場に戻った後に何も変わらなければ、人材育成の成果にはつながりにくくなります。

大切なのは、参加前の目的設定と、参加後に自身の業務へつなげるアクションです。

まず、参加前には目的を明確にします。

① 何を学んできてほしいのか

② 誰と話してきてほしいのか

③ 帰社後に何を共有してほしいのか

この3つを簡単に決めておくだけでも、参加中の意識は変わります。

何を持ち帰るかが明確になるため、学びを日々の業務にも活かしやすくなります。

次に、帰社後には必ずアウトプットの場をつくります。

たとえば、上司との15分の振り返り、チーム内での3分共有、簡単なメモの提出などです。

立派なレポートを求める必要はありません。

むしろ、中小企業では、負担を増やしすぎないことが大切です。

大がかりな制度にしようとすると、続かなくなるので注意しましょう。

「学んだことを1つ共有する」

「自社に活かせそうなことを1つ挙げる」

「明日から試す行動を1つ決める」

この程度でも十分です。

人材育成では、経験を与えるだけでなく、その経験を振り返り、次の行動につなげる仕組みが必要です。

社内研修と同じように、外部の学びにも振り返りと実践の場を用意することで、学びが定着しやすくなります。

6. 研修と他流試合を組み合わせた人材育成の進め方

では、中小企業が社内での研修と他流試合を組み合わせて人材育成を進めるには、どのような方法があるのでしょうか。

大切なのは、最初から大きな予算をかけないことです。

高額な研修を導入しなくても、社員が外部の視点に触れる機会はつくれます。

ここでは、始めやすい方法を紹介します。

6-1. まずは月1回、社外の学びを探す

最初に行いたいのは、社外の学びの場を探すことです。

自治体、商工会議所、業界団体、金融機関、地域の経営者団体などでは、無料または低価格のセミナーや勉強会が開催されていることがあります。

オンライン開催のものも増えているため、移動時間をかけずに参加できる場合もあります。

人事担当者や管理職が月に1回だけでも情報を確認し、「これは若手に良さそう」「これはリーダー候補に合いそう」と候補を集めておくと、外部の学びを取り入れやすくなります。

いきなり制度化する必要はありません。まずは、参加しやすい場を1つ見つけるところから始めるのが現実的です。

6-2. 参加前に「持ち帰るテーマ」を1つだけ決める

外部研修や勉強会に参加させるときは、事前に「持ち帰るテーマ」を1つだけ決めておきます。

たとえば、若手社員であれば次のようなテーマです。

・他社の若手は、どのように仕事を覚えているか

・自分と同じ立場の人が、どんな悩みを持っているか

・自社の良いところは何か

・自分がもっと伸ばしたい力は何か

リーダー層であれば、次のようなテーマも考えられます。

・他社の管理職は、部下育成で何を意識しているか

・自分のチームで取り入れられそうな工夫は何か

・自社の社内研修や育成の進め方で改善できる点は何か

テーマは多くしすぎない方がよいです。1つに絞ることで、参加者も考えやすくなります。

6-3. 帰社後は「3分共有」で、学びを社内に戻す

外部の学びを職場に持ち帰るには、帰社後の共有が欠かせません。ただし、負担の大きい報告会にする必要はありません。

おすすめは、朝礼や定例ミーティングの中で行う「3分共有」です。

話す内容は、次の3つで十分です。

・印象に残ったこと

・自社にも活かせそうなこと

・自分が明日から試したいこと

これだけなら、準備に大きな時間はかかりません。

聞く側にとっても、短時間で学びを共有できます。

ポイントは、発表のうまさを評価しないことです。

目的は、きれいに話すことではなく、外で得た気づきを社内に戻すことです。

共有のハードルを下げることで、続けやすくなるでしょう。

6-4. 上司や教育担当者が次に試す行動を一緒に決める

外部で得た気づきを行動に変えるには、上司や教育担当者の関わりが重要です。

たとえば、若手社員が外部研修で「他社の若手は自分から質問している」と気づいたとします。

その場合、上司から「では、今週は会議で1回質問してみよう!」と具体的な行動に落とし込むことができそうです。

リーダー候補が「他社では部下との1on1を定期的に行っている」と知った場合は、「まずは月1回、10分だけ部下と話す時間をつくってみよう」と決めてもよいでしょう。

大切なのは、外部で得た気づきを日常業務の中で試すことです。

他流試合で刺激を受け、日々の業務や社内研修の中で実践する。

この流れをつくることで、人材育成の効果は高まりやすくなります。

6-5. 参加者を固定せず、人材育成の機会を少しずつ広げる

最初は、意欲のある社員やリーダー候補を1人参加させるだけでも構いません。

うまくいけば、次は別の社員にも機会を広げていきます。

毎回同じ人だけが外に出ると、学びが一部の社員に偏ってしまいます。

若手、中堅、管理職など、少しずつ対象を広げることで、組織全体に外部の視点が入りやすくなります。

ただし、全員に同じ機会を与える必要はありません。

育成したい人材や、今後期待したい役割に合わせて、参加の機会をつくることが大切です。

「この社員には、外の同世代と話す機会が必要だ」

「このリーダーには、他社の管理職と話してほしい」

「この若手には、自社の良さに気づいてほしい」

このように、目的に合わせて場を選ぶと、限られた予算でも効果的な人材育成につながります。

6-6. 外に出られない場合は、社内で小さな他流試合をつくる

どうしても外部の研修や交流会に参加できない場合は、社内で小さな他流試合をつくる方法もあります。

たとえば、部署が違う社員同士で仕事の進め方を共有する。

普段関わらない先輩社員に話を聞く。

取引先との打ち合わせに若手社員を同席させる。

こうした機会も、社員にとっては十分な刺激になります。

同じ会社の中でも、部署や役割が違えば見えている景色は異なります。

外部に出ることが難しい場合でも、「いつもの上司・いつもの先輩」以外から学ぶ機会をつくることはできます。

人材育成に大切なのは、高額な研修を用意することだけではありません。

社員が普段とは違う視点に触れ、自分の考えを見直す機会をつくることです。

また、定着の樹では、他部署の業務を知ることが社内連携に与えるメリットについても紹介しています。

社内でできる人材育成の一つとして、部署を越えた相互理解を深めたい方は、こちらの記事もあわせてご覧ください。

関連記事:

7. まとめ:社内研修で教え、他流試合で気づく人材育成へ

社内研修や日々の業務を通じた育成は、人材育成の土台として欠かせません。

特に中小企業では、社内で仕事を教えながら育てる研修や日々の育成が、社員の成長を支える重要な仕組みになります。

しかし、社内だけで人材育成を完結させると、社員の視野や基準が固定化しやすくなります。

自社の良さにも、自分の課題にも気づきにくくなる場合があります。

そこで取り入れたいのが、社外の人と交流する他流試合です。

他流試合を通じて、社員は自社の良さを再認識したり、自分の伸びしろに気づいたりします。

リーダー層や幹部候補にとっては、自分の役割や覚悟を見直す機会にもなります。

ただし、外部研修や交流会に参加させるだけでは十分ではありません。

参加前に目的を決め、帰社後に学びを共有し、社内研修や日々の業務の中で次の行動につなげることが重要です。

大きな予算をかけなくても、できることはあります。

無料・低価格の勉強会を探す。参加者に持ち帰るテーマを1つ決める。

帰社後に3分共有を行う。

上司や教育担当者と一緒に次の行動を決める。

こうした小さな工夫でも、研修を受けっぱなしにしない人材育成につながります。

人材育成は、単にスキルを教えることではありません。

社員が自分の現在地を理解し、次の成長に向けて前向きに動き出せるようにすることです。

社内研修や日々の業務で基礎を育て、他流試合で外部の刺激を得る。

内で教え、外で気づく。この両輪で成長機会をつくることが、これからの人材育成には求められるのではないでしょうか。


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