2025.07.08

【専門家監修】3人に1人がビジネスケアラーの時代 孤立と介護離職を防ぐには

近年、「ビジネスケアラー」という言葉をメディアで目にする機会が増えています。

2025年には団塊の世代全員が75歳以上となり、介護を必要とする人が急増すると見込まれる中、経済産業省は、仕事と介護を両立する「ビジネスケアラー」が2030年には300万人を超えると予測しています1

実際には職場に相談することなく離職に至るケースも少なくなく、厚生労働省の調査でもこうした実態が明らかになっています2

本記事では、介護離職防止支援の専門家・佐藤一臣さんに、ビジネスケアラーと介護離職の現状や、企業に求められる支援のあり方についてお話をうかがいました。


見えにくい「ビジネスケアラー」問題

Q1. 増え続ける“ビジネスケアラー”とは、どんな存在か?

ビジネスケアラーとは、「仕事をしながら家族などの介護に従事する人」のことを指します。

Q2. なぜ企業が今、ビジネスケアラーに目を向けなければならないのか?

介護が必要な家族を抱える社員の多くは、働き盛りの役職者であることが少なくありません。

こうした人材が介護を理由に突然離職することは、企業にとって大きな損失につながります。

そのため、社員の中にどれだけのビジネスケアラーが存在するのかを把握し、早めに対応することが重要です。

介護離職はなぜ突然起こるのか

Q3. 介護と仕事の両立が特に難しい社員の特徴は?

家族の介護に直面する社員は、主に40代から70代に多く、働き盛りの時期に重なりやすいのが特徴です。

社員の属性や働き方、家族構成によっては、仕事との両立が極めて困難になることがあります。

両立が特に難しくなりやすいケース:

  • 役職に就いている人
     長時間労働や業務責任の重さから、介護に充てられる時間が限られがちです。
  • 製造業やサービス業の従事者
     勤務時間が不規則で、突発的な介護対応がしづらい傾向があります
  • 営業職や出張が多い人
     移動中に呼び出される可能性があり、即座の対応が困難です。
  • 小規模企業に勤務する社員
     人手不足で代替要員が確保しにくく、休暇取得が難しい環境です。
  • 家庭内で支援を得にくい状況にある人
     一人っ子で兄弟姉妹の協力が得にくい場合や、共働きで配偶者も多忙な家庭、子育てと介護が重なるケース、要介護者が遠方に住んでいる場合などは、家庭内での支援体制が整いにくく、孤立しやすい傾向にあります。

企業は、こうした社員が職場にいることを前提に、対応を考える必要があります。

Q4. なぜ介護離職は「突然」起こるのか?

「自分の親はまだ元気で大丈夫」と思い込み、親に介護の必要性があることを認めたがらない方が多く見られます。

「少し手伝えば生活できる」と安易に考えていた結果、想像以上に負担が大きくなっていたと、後になって気づくケースも少なくありません。

準備不足や介護制度に関する情報不足も、突然の離職につながる大きな要因です。

介護離職を防ぐために企業ができること

Q5. なぜビジネスケアラーは「介護で悩んでいる」と相談しづらいのか?

「介護を理由に休むと出世や賞与に不利になるのでは」「職場に迷惑をかけてしまう」「身内のことなので会社に言いづらい」など、社員が抱える心理的なハードルはさまざまです。

また、会社側の理解不足や、介護に対する無関心な空気も、相談しにくさを助長していると考えられます。

Q6. 介護の悩みを“ひとりにしない”職場にするためには?

制度を整えるだけでは不十分です。

企業全体で介護離職の現状を理解し、制度の存在や利用方法について情報共有を行うことが求められます。

制度があっても、職場の空気や上司の理解がなければ、実際には使われにくいのが現実です。

優秀な人材を介護離職で失わないためにも、まずは気軽に相談できる人材を社内に置くこと、あるいは外部の専門機関と連携することで、制度の“活かし方”が大きく変わってきます。

Q7. 今後さらに増えるビジネスケアラーに、企業はどう備えるべきか?

現在、毎年10万人が介護を理由に離職しており、今後は働く人の3人に1人がビジネスケアラーになるとも言われています。

こうした中で、企業がまず取り組むべきは、社員が気軽に相談できる窓口を設けることです。

加えて、短時間勤務やテレワーク、突発的な休みに対応できる柔軟な制度の整備も欠かせません。

実際には「相談があった時点で、すでに状況が深刻になっている」ケースが多いため、早めのアプローチや周囲の気づきが非常に重要となります。

監修者紹介:佐藤一臣様(介護離職防止支援センター代表/株式会社アルベートサム代表取締役)

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今回お話をうかがった佐藤一臣さんは、仙台市を拠点に訪問介護事業を展開する株式会社アルベートサムの代表であり、企業向けの「介護離職防止」支援にも力を注いでいます。

従業員が介護を理由に突然離職してしまう――そんな相談を企業経営者から受ける機会が増えたことをきっかけに、「介護離職防止支援センター」を設立。

センターでは、育児介護休業法や介護保険制度に関する研修、社内制度づくりの支援、従業員意識調査、個別相談対応などを通じて、職場に“備える文化”を根づかせる取り組みを行っています。

介護離職対策に向けた研修や制度づくりについて相談をご希望の法人様は、ぜひお気軽に介護離職防止支援センターへお問い合わせください。

📌 詳しくはこちら
▶ 介護離職防止支援センターHP:https://kaigo-rishoku.jp/
▶ 株式会社アルベートサムHP:https://arbetsam.jp/

  1. 「仕事と介護の両立支援に関する経営者向けガイドライン」_経済産業省(2024年3月) ↩︎
  2. 「令和3年度 仕事と介護の両立等に関する実態把握のための調査研究事業報告書 企業アンケート調査結果」_厚生労働省(2022年3月)
    ↩︎

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