11月18日は「土木の日」なのだそうです。
これは土木学会や日本土木工業協会などが建設省(現:国土交通省)の支援で1987年に制定したもので、工学会の設立日(1879年11月18日)や「土木=十一・十八」という語呂が由来とされています。
社会インフラを支える土木業界では、若手不足が深刻化する中、
「若手はどのように業界へ入り、どのような理由で続け、どのような現場に課題を感じているのか」
を知ることは、今後の採用・育成・定着を考える上でとても重要です。
今回、定着の樹では、高校卒業後に施工管理職としてキャリアをスタートし、その後建設コンサルにも挑戦したAさん(20代男性)にリアルな声を伺いました。
学生時代の進路選択から、現場で直面したギャップ、そして“この業界で働き続ける理由”まで。
若手の本音には、土木業界全体に通じるヒントが散りばめられていました。
目次
1. 学生時代:土木を選んだ理由──“部活”から始まったキャリアの入口
まずは、土木との出会いから伺いました。
―最初に土木業界を選んだ理由は何でしたか?
Aさん:
中学の頃、兄が通っていた工業高校の野球部に入りたくて、その高校を受験しました。
その中で、比較的入りやすいと言われていたのが土木科だったんです。
そこから3年間土木を学んで、せっかくなら就活にも活かせたらいいな、とその時は軽く考えていました。
高校では野球中心の生活を送りつつ、授業で土木の基礎を学んできたAさん。
その後の“高校卒業後の進路選択”にも、周囲の存在が大きく影響したそうです。
―では、高校卒業後の進路を考える中で、どんな選択肢がありましたか?
Aさん:
仲のいい友人は公務員や大手メーカー会社に進む人が多かったです。
公務員になった友人と一緒に求人票を見て、『この会社いいんじゃない?』とアドバイスをもらったことも大きかったですね。
土木を選んだのは、その友人の影響もあるかもしれません。
【豆知識:高校生採用は“情報が少ない”世界】
高校生採用の多くは「学校斡旋」で行われ、企業はハローワークに求人を申請し、発行された求人票が学校を通じて生徒に届きます。
大学生のように求人広告やSNS接点が多いわけではなく、限られた求人票1枚が進路選択を左右する世界です。
そのため、学生は“情報が少ないまま”企業や業界を選ばざるをえない状況にも。
だからこそ、企業側は入社後の受け入れ体制や育成環境の整備が、若手社員の定着に直結します。
2.現場に入って感じた“リアル”:ギャップ・環境・スケール感
高校卒業後、施工管理職として就職したAさん。
最初に感じたのは、予想外の“ポジティブなギャップ”でした。
―現場に入って最初に感じたギャップは?
Aさん:
17時で帰れる喜びが大きかったです。高校時代、僕の野球部は平日22時終わりだったので(笑)
あとは、工事現場はとにかく暑い、熱い…機械の規模も大きくて驚きました。
Aさんのケースはやや特殊で、部活動時代の過密スケジュールとの比較があったからこそ、退社時間の早さに強いインパクトを受けたと言えます。
一方で、工事現場ならではの環境――気温の厳しさ、機械のスケールの大きさ、体力負荷――については、多くの新入社員が最初に直面するポイントです。
そのギャップを「面白い」と捉えるか、「つらい」と感じるかは人それぞれで、ここが“土木の現場を好きになれるかどうか”の分かれ目になるのかもしれません。
3. 仕事の魅力:小規模現場で芽生えた“土木のやりがい”
Aさんが仕事でやりがいを感じたのは、大規模案件ではなく“小規模の現場”でした。
―働く中で感じたやりがいと大変さは?
Aさん:
高速道路の案件とかやってた時は規模がデカすぎて、やりがいとかはあまり感じなかったです。
1人で諸口(100〜200万の現場)を回るようになってから土木のやりがいを感じました。
現地調査して、機械と人の発注、工程、施工管理…。
もちろん不安はありましたけど、上司のフォローもあって、
最後に舗装して道路になったときは“土木だな”って感じられました。
Aさんのお話を伺って印象的だったのは、やりがいの源泉が“案件の大きさ”ではなかったという点です。
Aさんの場合、「任せてもらえる経験」や「フォローしてくれる上司の存在」が、仕事への向き合い方に大きく影響していたと語っていました。
特に、「一つの仕事を自分の力でやり切る感覚」がAさんにとっての成長実感につながり、それがこの仕事を続けたいと思える要素の一つになっていたようです。
4. 現場の人間関係──“見た目は怖いけれど、話すと優しい”というギャップ
―職場・現場のコミュニケーションはどうでしたか?
Aさん:
土木業界で働く人は年代が上の方が多いかもしれないけど、喋りやすいし質問すればちゃんと受け答えしてくれます。
ぶっちゃけ見た目が怖そうな方とかも少なくないですが、話してみると意外と優しかったり面白かったりしますね(笑)
Aさんのお話を聞いて印象的だったのは、“相談できる相手がいること”が安心感につながっていたという点です。
もちろん、現場での人間関係の感じ方は人それぞれですが、Aさんのように気軽に声をかけられる先輩がいる環境は、働き続けるうえで一つの助けになっていたようです。
5. 業界に残る理由:地図に残る仕事の誇りと、仲間とのつながり
施工管理→建設コンサルタントへと職種を変えたAさん。
それでも業界を離れなかった理由を伺いました。
―なぜ土木業界を続けようと思ったのですか?
Aさん:
就職してからずっと同じ業界にいたから変えるのは勿体ないし、
自分が施工した物・設計したものが“地図になる”ことは何よりもやりがいだと思います。
公務員になった友人とも業界トークが盛り上がるので、刺激になります。
土木業界には、仕事が“目に見える形で残る”という特徴がありますが、Aさんにとっても、この点は大きなやりがいにつながっていたようです。
自身が施工したり設計に関わったものが地図に残るという体験が、業界に留まる理由の一つになっていたと話してくれました。
また、Aさんの場合は、同じ分野で働く友人・仲間とのつながりも励みになっていたようで、そうした関係性が結果的に“この業界で続けたい”という気持ちを後押ししていたように感じられました。
6. 若手が“続けやすい”業界にするために必要なこと
最後に、Aさんが現場で働く中で感じた“改善してほしい点”について伺いました。
―若手が続けられる業界にするためには?
Aさん:
他の業界から見ても給料は言うほど安くないと思います。
ただ、働き方改革がまだ進んでいない。
施工管理で1人現場に入ると休めない、引き継ぎがうまくいかない問題もあります。
工期に余裕を持つ、土日は基本休み…がスタンダードになってほしいなと個人的には思います。
大きい現場をやったら休みやボーナスなど“目に見える対価”は必要かと。
8時-17時で同じ給料なら、そちらに行くのは当たり前ですよね。
Aさんのお話を聞く限りでは、「給料の多寡」よりも「働き方への納得感」 が、大きなテーマになっているように感じられました。
Aさんが挙げてくれたポイントは、
- 工期の余裕
- 引き継ぎ可能な体制
- 土日の確保
- 大きな現場後のインセンティブ
など、“働き方そのもの”に関する改善点が中心でした。
もちろん、感じ方は人によって異なりますが、Aさんのように、「無理なく働ける環境であるかどうか」が、この業界で働き続けるかどうかの判断材料になることもあるのだと感じさせられます。
7. さいごに:若手の声から見えた“定着のカギ”
今回のインタビューは、あくまでAさん個人の経験をもとにしたお話ですが、その中には業界での定着を考えるうえで示唆に富むポイントがありました。
Aさんのお話を整理すると、次の3点が印象的でした。
- “業界を選ぶ理由”は偶然でも、続ける理由は本人の中に確かな必然が生まれていくことがあること
- 大きな案件より、“任せてもらえる経験”が成長実感や働き続けたい気持ちにつながったこと
- 働きやすさ(休み・工期・相談しやすさ)が、Aさんにとっての安心感を支える要素になっていたこと
また、Aさんの経験とは別に、土木を含む建設業界全体では、働き方改革が進みつつある一方で、業界特有の構造的な事情も存在します。
重層的な請負構造や、多数の事業者が関わるプロジェクト体制など、自社だけでは改善が難しい領域が残っていると指摘されることもあり、現場の環境改善には複数の関係者が連携して取り組む必要があります。
業界において若手不足が続く中、まずは現場で働く一人ひとりの声に耳を傾けることが、企業にとってできる第一歩なのかもしれません。
今回のAさんのお話が、皆さまの採用・育成・定着施策を考える際のヒントになれば幸いです。