2025年は、多くの企業にとってこれまでの当たり前が見直される一年でした。
働き方への意識の変化、求職者の価値観の多様化、職場の内側にある空気への社会的な注目。
企業と従業員の関係性について、あらためて考えるきっかけとなる出来事が相次いだと感じられます。
本記事では、定着の樹編集部が「2025年を象徴した」と考える3つのキーワードを取り上げ、
その理由と、定着の視点で見えた課題、そして2026年に向けて企業が取り組みたい方向性をまとめました。
1. キーワード①:AI
まず1つ目の注目キーワードは「AI」です。

1-1. AIとは?
AI(人工知能)とは、大辞泉では
「コンピューターで、記憶・推論・判断・学習など、人間の知的機能を代行できるようにモデル化されたソフトウエア・システム。」
と説明されています。
近年はこうした技術を、人の学習・判断・文章生成を補助する仕組みとして活用する場面が増えており、実務でも身近な存在になりました。
とくに2025年は生成AIの一般利用が一気に広がり、採用・事務作業・資料制作・壁打ちのコミュニケーションなど、日々の業務の中で自然に触れる機会が多い一年だったと言えます。
採用現場でも、求職者が自己PRの作成に利用したり、企業側がスカウト文面の整理に使ったりするなど、これまで専門的だった作業を誰でも扱えるレベルに引き下げた点が大きな変化として見られました。
1-2. 定着の樹が“AI”を今年のキーワードに選んだ理由
AIを利用した人材採用が当たり前になりつつある今、「採用段階で見える情報」と「入社後の職場のリアル」の差が広がりやすいと感じたためです。
生成AIによって、文章・資料・PR文は“それらしく”整うようになりました。
その一方で、
- 本来のスキルや経験
- 仕事への向き合い方
- 企業側が持つ実態
といった、採用では見えにくい部分が埋もれてしまうリスクが生まれています。
こうした背景から、2025年はAIをめぐる話題が「便利さ」だけでは語れない転換期に入ったと判断し、
キーワードとして選びました。
1-3. AIを使った採用活動で“つまずきやすいポイント”
AIを利用した採用活動が進む中で、選考時に見える情報と入社後の実態に差が生じやすい点が、定着の観点では「つまずき」になりやすいと感じています。
- 選考で整った印象と、入社後の業務イメージが一致しにくい
- 求職者側の自己PRの完成度が上がり、実際の経験や得意分野が把握しにくくなる
- 企業側もAIで整えた情報が増えることで、職場の実態と離れた説明になる可能性がある
- 入社後の成長ルートが曖昧なままだと、ミスマッチが早期離職につながりやすい
これらはAIが悪いのではなく、便利な技術が前提になったことで、双方が実態を確認し合うプロセスが不足しがち…という構造が背景にあるのではないでしょうか。
1-4. 2026年に向けて、企業がどう向き合うか
AIが採用や日常業務に自然と入り込むようになった今、企業側も実態をすり合わせる工夫がこれまで以上に求められるようになってきています。
2026年に向けて、次のような取り組みが有効だと考えています。
- 選考段階で、業務の背景・職場の特徴をできる範囲で言語化する
- 入社後のオンボーディングに「成長ルートの見える化」を取り入れる
- AIで補えるタスクと、人が担う価値(判断・対話)を整理する
- 管理職にもAIリテラシーを共有し、活用の“前提”をそろえる
AIの進化は止まりません。
だからこそ、AIが前提となる社会で、人がどのように価値を発揮するかを見直すことが、人材定着の観点でも必要なアクションになるでしょう。
2. キーワード②:ワークライフバランス
2つ目の注目キーワードは「ワークライフバランス」です。

2-1. ワークライフバランスとは?
ワークライフバランスとは、仕事と生活の調和を大切にする考え方です。
2025年は、この言葉が社会全体の議論の中心となる出来事が続きました。
発端のひとつが、2025年10月に高市早苗首相が自民党総裁に選ばれた際の「『ワークライフバランス』という言葉を捨てます」という発言です。
後日、高市氏は
「自分も働いて国民の皆さまのために貢献したい、そんな思いがございました。決して多くの国民の皆さまに働きすぎを奨励する意図はございません。誤解のなきようお願いいたします。」
と説明していますが、この発言は大きな議論を呼びました。
さらに、Z世代の働き方意識の調査を取り上げた記事1が、SNSを中心にワークライフバランスへの言及を含めて幅広い議論が交わされました。
2-2. 定着の樹が“ワークライフバランス”を今年のキーワードに選んだ理由
働き方への価値観は多様になっており、同じ組織でも「何を大切にするか」がそろいにくい状況が見えてきたためです。
若手世代はキャリアチェンジ・結婚・子育て・夫婦共働き・地元を離れての就職など、ライフステージが大きく動く時期にあります。
一方で管理職は育成や責任の重さから「仕事を優先する前提」が強く、両者の前提がすれ違いやすい環境が生まれるのも無理はありません。
こうした背景から「価値観のズレ」が職場に影響する場面が多くなったと感じ、
キーワードとして取り上げました。
2-3. ワークライフバランス議論の“つまずきやすいポイント”
働き方に対する考え方は、人によって優先したいことや前提が異なります。
その違いが積み重なると、同じ職場でも受け止め方の差が生まれ、日常のやり取りに影響が出ることがあります。
また、そもそもの「ワークライフバランス」という言葉の意味の解釈も人それぞれバラつきがあるようにうかがえますが、
内閣府は「ワーク・ライフ・バランス憲章」で仕事と生活の調和が実現した社会の定義について、次のように述べています。
国民一人ひとりがやりがいや充実感を感じながら働き、仕事上の責任を果たすとともに、家庭や地域生活などにおいても、子育て期、中高年期といった人生の各段階に応じて多様な生き方が選択・実現できる社会
――内閣府「仕事と生活の調和とは(定義)」より
出典URL:https://wwwa.cao.go.jp/wlb/towa/definition.html
つまり、「ワークライフバランス」というのは単なる仕事と私生活の比率の話ではなく、「選択肢が持てる状態」まで含む広い概念です。
この前提が共有されていないことで、価値観の違いが余計に際立ち、議論がかみ合いにくくなる場面が目立っているのではないでしょうか。
人材定着の視点では、ワークライフバランスの考え方について、職場内で次のようなことが起こりやすいと感じています。
- 働き方への期待が立場によって異なり、認識が揃いにくい
- 業務量の感覚や“忙しさ”の基準が、現場と管理職でずれやすい
- 制度は整っていても、利用しにくい雰囲気が残ることがある
- 小さな誤解を放置すると、不信感やコミュニケーションの低下につながる
これらはどちらかが悪いわけではなく、見えている景色が違うことで自然に生まれる認識のズレだといえます。
だからこそ、お互いの状況を理解し合うための対話が欠かせないと考えています。
2-4. 2026年に向けて、企業がどう向き合うか
働き方をめぐる価値観は、必ずしも一つの基準に収まりません。
その違いを前提に、職場でどう共有していくかが今後の課題になると感じています。
2026年に向けて意識したいポイントをまとめると次のとおりです。
- 価値観の違いを前提に、話し合える場をつくる
- 生活との両立だけでなく、成長の見通しも伝える
- 多様なライフスタイルを尊重し、単一の基準で評価しない仕組みを作る
- 誤解を生まないために、情報共有と日常のコミュニケーションを改善する
多様な価値観が共存するからこそ、働く環境をどう整えるかを丁寧に話し合う姿勢が、これからの職場づくりに欠かせないと考えています。
3. キーワード③:企業風土
最後に取り上げる3つ目の注目キーワードは「企業風土」です。

3-1. 企業風土とは?
企業風土とは、大辞泉では
「従業員に特定の考え方や行動様式を植え付ける、その企業独特の環境。社風。」
と定義されています。
平たく言うと、その職場で「これが普通だよね」と受け止められている空気や価値観のことです。
明文化されていないものの、日々の仕事の中で自然と共有されていきます。
こうした企業風土が整っている職場では、仕事の進め方がそろいやすく、安心して意見を出しやすいというメリットがあります。
一方で、不明確なまま放置されると、小さな問題が次第に組織として大きな問題に発展しうる面もあります。
2025年は、ジェンダー配慮や職場の安全性をめぐる問題が注目され、企業の内側にどんな空気があるのかが社会的関心を集めました。
こうした流れもあり、「企業風土」は2025年の新語・流行語大賞にノミネートされています。
3-2. 定着の樹が“企業風土”を今年のキーワードに選んだ理由
定着の樹が企業風土を選んだのは、自然発生している職場の空気が、本当に健全なのかを見直す動きが今後生まれそうと感じたためです。
企業風土というものは外から見えにくく、暗黙の了解や慣習が積み重なることで、小さな問題が内部で蓄積するリスクがあります。
こうした点が今年あらためて議論されるようになったため、注目すべきキーワードとして取り上げました。
3-3. 見直しが遅れた企業風土の“つまずきやすいポイント”
企業風土は、社内での日々のふるまいや声のかけ方、判断の仕方といった日常の行動パターンが積み重なることで、長い時間をかけて形づくられていくものです。
そのため見直しの機会が少ないと、職場内で「指摘しづらい違和感や疑問」が蓄積しやすくなります。
こうした特性から、次のような問題が起きやすいと感じています。
- 意見が表に出にくい組織では、問題が見えないまま残りやすい
- 小さな気づきが共有されないと、改善が後回しになりやすい
- 管理職の負荷が高いほど、コミュニケーションの量や質が低下しやすい
企業風土は、時間の経過とともに「なんとなくの当たり前」として定着していきます。
その「当たり前」がステークホルダーとの信頼関係を壊す事態にならないよう、
世の中の流れに沿って、企業内での考え方も適宜アップデートしていく必要があるでしょう。
3-4. 2026年に向けて、企業がどう向き合うか
企業風土は、一度形づくられると自然に維持されやすいため、働く人の声が届きやすい状態を保つには、組織として意識的に整えることが重要になります。
そのため、現場スタッフを含め、どの職位の従業員でも問題に気づきやすく、意見を伝えやすい職場にするには、個々の努力に任せず、組織として続けられる仕組みを整えることが欠かせません。
2026年に向けて、意識したいポイントをまとめると次のとおりです。
- 小さな意見を言える“話せる場”を整える
- 行動指針を現場で使える具体的な言葉にする
- 管理職の負荷を見える化し、風土づくりの担い手としてサポートする
- 改善の積み重ねを“仕組み”として定着させる
企業風土は放っておけば固まりやすいからこそ、日常のやり取りが良い循環を生む仕組みが求められます。
4. 総括:2025年の3つのキーワードが示したもの
AIの広がり、価値観の多様化、企業風土に対する考え方…
これらは別々のテーマに見えて、根底には共通点があります。
それは、企業と従業員の前提や期待がずれやすい構造があるということです。
この「ズレ」を丁寧に埋めていくことが、採用・育成・定着すべてをつなぐ大きな力になります。
2026年は、単発の施策ではなく、「採用〜定着〜活躍」を一貫して設計する視点がより求められる一年になるはずです。
ぜひ今日から、従業員の定着に必要なことを考えてみませんか?
参考文献:
- 日本経済新聞「Z世代、35%が週休3日希望 『無理せず・安定』に重き 民間調査」
(2025年11月23日公開)
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC046PO0U5A101C2000000/ ↩︎
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