
中途採用では、候補者から内定承諾を得ると、採用活動がひとまず落ち着いたように感じるかもしれません。
しかし、採用する側にとっては一区切りでも、本人にとっては、新しい職場へ移るための期間が始まった段階です。
現職で働いている人であれば、退職手続きや仕事の引き継ぎを進めながら、入社に向けた準備をすることになります。
「新しい職場でうまくやっていけるだろうか」「実際にはどんな仕事を任されるのだろう」
と、期待と同時に不安を感じることもあるでしょう。
こうした期間に企業からほとんど連絡がなければ、疑問や不安を抱えたまま入社日を迎えることにもなりかねません。
だからといって、頻繁に連絡したり、入社前の研修や課題を増やしたりすればよいわけでもありません。
中途採用の入社前フォローで大切なのは、必要なタイミングで必要な情報を伝え、本人と企業の認識を合わせていくことです。
この記事では、中途採用の内定後フォローを「内定辞退を防ぐため」だけではなく、入社後の定着につなげるための準備期間と考えます。
採用や人材育成に多くの人員・予算を割くことが難しい中小企業でも取り組みやすい方法を紹介します。
1. 中途採用でも内定後・入社前のフォローが必要な理由
「新卒ならともかく、社会人経験のある中途採用者にも入社前のフォローが必要なのか?」と思う方もいるかもしれません。
しかし、社会人経験のある中途採用者でも、新しい会社に入る際には不安を感じることがあります。
また、入社前のコミュニケーションは、本人の不安を減らすだけでなく、入社後のミスマッチを防ぐ機会にもなります。
① 内定承諾後も新しい職場への不安がなくなるわけではない
中途採用者の場合、内定承諾から入社までの間も現職で働いているケースがあります。
退職の手続きや後任への引き継ぎ、有給休暇の消化などを進めながら、転職先への準備をする人もいるでしょう。
そのような状況では、

入社したら、実際にはどのような仕事を任されるのかな?

新しい上司や同僚とうまくやっていけるかな?

これまでの経験は新しい職場でも通用するのかな?
といった不安が出てくることがあります。
内定を承諾したあとに、改めて「この会社を選んでよかったのだろうか?」と考えることもあるでしょう。
つまり、内定承諾は、入社に関する不安や疑問がすべて解消されたことを意味するわけではありません。
企業側から適切に情報を伝え、質問できる機会をつくることが、安心して入社日を迎えるための支えになります。
② 入社まで連絡がないと不安や認識のズレが残りやすい
内定承諾から入社まで1か月、場合によってはそれ以上空くこともあります。
その間に企業から連絡がなければ、本人は「次はいつ連絡が来るのか」「入社までに何を準備すればいいのか」がわからないまま過ごすことになります。
入社前のフォローは、こうした不安を減らすだけでなく、採用時に説明した内容を確認する機会にもなります。
たとえば面接では「営業を中心に担当してもらう」と伝えていたものの、
配属先では「まず半年間は既存顧客のフォロー業務を中心に担当してもらう」と考えていたとします。
この認識の違いを確認しないまま入社すれば、「聞いていた仕事内容と違う」という不満につながる可能性があります。
厚生労働省の「年齢にかかわりない転職・再就職者の受入れ促進のための指針」でも、中途採用者の定着を図る観点から、賃金などの労働条件や職務内容だけでなく、期待する役割、職場情報、企業文化などの情報提供に積極的に取り組むことが示されています。
ただし、連絡は多ければ多いほどよいわけではありません。
「連絡回数を増やす」のではなく、入社に必要な情報を、適切なタイミングで届けることを意識しましょう。
③ 内定後フォローは入社後の定着に向けた準備期間でもある
内定後フォローというと、「内定辞退を防ぐための施策」というイメージを持つ方も多いでしょう。
もちろん、入社まで関係を保つことも目的の一つです。しかし、無事に入社しても「想像していた仕事と違った」「職場に馴染めない」と短期間で離職してしまえば、「人材を採用し、定着してもらう」という会社側の課題が解決したとは言いにくいでしょう。
そこで考えたいのが、内定後フォローを入社後の定着まで見据えた準備期間にすることです。
入社前の段階で仕事内容や期待する役割、働き方などを確認しておけば、本人と会社との認識のズレに気づく機会をつくれます。
厚生労働省が公表している中途採用・経験者採用の事例でも、採用時の情報開示は、業務内容や職場環境、働き方などに関する入社前後のミスマッチを減らし、人材の定着を図ることにつながるとされています。
入社した社員が職場に馴染み、仕事や組織への理解を深めながら力を発揮できるよう支援する取り組みを「オンボーディング」といいます。
内定後から入社までのフォローも、その前段階として考えてみましょう。
2. 中途採用の内定後フォローがうまくいかない3つの原因
中途採用者をフォローしたほうがよいとわかっていても、実際には十分な対応ができなかったり、反対に本人の負担になったりすることがあります。
ここでは、内定後フォローがうまくいかない主な3つの原因を見ていきます。
① 内定承諾を採用活動のゴールにしてしまう
採用活動では、求人の作成から応募者対応、面接、条件調整まで、多くの業務が発生します。
特に採用専任の担当者がいない中小企業では、通常業務と並行して対応しているケースもあるでしょう。
そのため、候補者から内定承諾の連絡が来ると、「採用が決まった」と安心し、その後の対応が後回しになってしまうことがあります。
その結果、次の連絡が入社日の数日前になってしまうこともあります。
内定承諾を一つの区切りとしつつ、そこで採用活動を完全に終わらせないことがポイントです。
「採用する」から「入社してもらう」、さらに「職場に馴染んでもらう」までを一続きで考える。
この考え方を社内で共有しておくと、内定後の対応も採用プロセスの一部として組み込みやすくなります。
② 採用担当者と配属先で情報が共有されていない
採用担当者は面接などを通じて、本人の経歴やスキル、仕事への希望、入社後に期待する役割に関する情報などを把握しています。
ところが、その情報が配属先へ十分に共有されていないことがあります。
たとえば、採用担当者は「前職の経験を活かして○○の業務を担当してもらう」と説明していた一方、配属先では別の仕事を任せるつもりだった、というケースです。
これでは、本人に丁寧な入社前フォローを行っていても、入社後に話が食い違ってしまいます。
すべての面接内容を現場へ共有する必要はありません。
本人のプライバシーにも配慮しながら、担当予定の仕事や期待する役割など、受け入れに必要な情報について認識を合わせておくことがポイントです。
③ 連絡回数や施策を増やすことが目的になっている
「内定者をフォローしなければ」と考えるあまり、連絡の回数や施策を増やすこと自体が目的になってしまう場合もあります。
たとえば、毎週の電話やメール、入社前の課題や研修、社内イベントへの参加などです。
中途採用者の場合、まだ前職に在籍している可能性があります。
仕事の引き継ぎや退職準備をしながら、転職先からの課題やイベントにも対応するとなれば、本人にとって負担になることも考えられます。
厚生労働省が紹介する中途採用企業の事例には、勤務開始まで電話や社内報の送付などでコミュニケーションを取っている例もあります。
必ずしも大規模なイベントや研修を行わなければならないわけではありません。
入社前フォローでは「どれだけ手厚くしたか」より、入社に必要な情報を適切なタイミングで届けられたかを基準に考えてみましょう。
3. 中途採用の入社前フォロー|内定承諾後から行いたい4つのこと
では、中途採用の内定後フォローでは、具体的に何をすればよいのでしょうか。
ここからは、中小企業でも取り入れやすい方法を、内定承諾後から入社までの流れに沿って4つ紹介します。
なお、「入社1か月前」「入社1~2週間前」という時期はあくまで目安です。
内定から入社までの期間に合わせて調整してください。
① 内定承諾直後|入社までの予定と連絡方法を共有する
内定承諾を受けたら、まずは承諾へのお礼とともに、今後の予定を伝えます。
この段階で共有しておきたいのは、たとえば次のような内容です。
- 入社予定日
- 入社までの大まかな流れ
- 必要な手続きや提出書類
- 次に会社から連絡する時期
- 質問や相談がある場合の連絡先
すべての情報を一度に伝える必要はありません。
ポイントは、「次に会社からいつ連絡が来るのかわからない」という状態をつくらないことです。
たとえば、
入社日の2週間ほど前に、初日の予定について改めてご連絡しますね!
と一言添えておけば、本人も今後の見通しを持ちやすくなります。
連絡手段もメールや電話など、普段使っているもので構いません。
新しいシステムを導入するよりも、「誰に連絡すれば回答してもらえるか」が本人に伝わっていることを優先しましょう。
② 入社1か月前を目安に|仕事内容や期待する役割を確認する
入社日が近づいてきたら、仕事内容や配属について改めて確認します。
たとえば、
- 配属予定の部署
- 担当する予定の業務
- 入社後に期待している役割
- 面接や内定時から変更された事項
- 本人が現在不安に感じていること
などです。
ここで意識したいのが、「魅力付け」よりも「認識合わせ」を優先することです。
入社してもらうために会社の良い面だけを強調すると、実際に働き始めたあとにギャップが生じる可能性があります。
最初の3か月は○○の業務を中心に覚えてもらう予定です。
繁忙期には△△の仕事をお願いすることもあります。
など、実際の働き方がイメージできる情報も伝えておきましょう。
会社側から説明するだけでなく、「入社にあたって気になっていることはありませんか?」と尋ね、本人が質問や不安を話せる時間も設けましょう。
面接時から状況が変わっている場合も、この段階で改めて共有できます。
③ 入社1~2週間前|初日の予定や必要な準備を具体的に伝える
入社が近づいたら、初日の案内を具体的に伝えます。
たとえば、
- 出社する日時と場所
- 当日の持ち物
- 服装
- 初日の大まかなスケジュール
- 到着したら誰を訪ねればよいか
- 当日の連絡先
などです。
社内にいる側からすると、「会社に来ればわかる」と思えることでも、初めて出社する本人にはわかりません。
たとえば、
・同じ建物に複数の入口がある
・昼食を持参する社員が多い
・初日は通常より少し遅い時間に出社してもらう
といった情報もあります。
細かな疑問を事前に減らしておけば、本人も初日を迎える準備がしやすくなります。
案内の内容を毎回ゼロから考える必要はありません。一度メールのひな型を作っておけば、次回以降の採用でも活用できます。
④ 入社前までに|本人から得た情報を配属先へつなぐ
本人へのフォローと並行して行いたいのが、入社後の受け入れにつながる情報共有です。
採用過程や入社前のやり取りでは、
- これまでの経験や得意な業務
- 本人が不安に感じていること
- 会社が期待している役割
- 面接などで本人へ説明した仕事内容
といった情報が集まります。
これらを採用担当者のところだけで止めてしまうと、配属先の上司や現場が十分な情報を持たないまま、本人を迎えることになります。
たとえば本人が入社前に

未経験の○○業務についていけるか少し不安です…
と話していたのであれば、その情報を必要な範囲で配属先と共有しておくことで、入社後の声かけや仕事の教え方を考える材料になります。
一方で、本人が個人的な相談として話した内容まで無条件に共有するのは適切ではありません。
本人のプライバシーに配慮し、業務や受け入れに必要な情報を整理して引き継ぐようにしましょう。
新入社員を迎える際には、本人へのフォローとあわせて、職場側の準備も必要です。
PCや備品、社内アカウント、教育担当者、初日のスケジュールなど、具体的な受け入れ準備については、以下の記事で詳しく紹介しています。
関連記事:新入社員の受け入れ準備|モノ・場所・ヒトで整える方法
4. 中小企業の入社前フォローは「手厚さ」より「続けられる仕組み」にする
ここまで紹介した取り組みを見て、「採用のたびにここまで管理する余裕がない」と感じる方もいるかもしれません。
特に中小企業では、人事や採用だけを担当する社員がおらず、経営者や総務担当者、現場の管理職などが採用業務を兼任していることもあります。
その場合、担当者個人の頑張りだけに頼らないことがポイントです。
費用をかけて新しい仕組みを導入する前に、まずは現在の業務で使っているツールを活用して、対応漏れを防ぐ方法を考えてみましょう。
① 連絡するタイミングをあらかじめ決めておく
内定後の連絡を担当者の感覚に任せると、忙しい時期には後回しになりがちです。
そこで、「いつ連絡するか」をあらかじめ決めておきます。
一例として、次のように整理できます。
| タイミング | 本人へのフォロー | 社内で行うこと |
|---|---|---|
| 内定承諾直後 | 今後の予定を共有する | 入社日を共有する |
| 入社1か月前 | 仕事内容・役割を確認する | 配属先と認識を合わせる |
| 入社1~2週間前 | 初日の予定を案内する | 本人の情報を配属先へ引き継ぐ |
| 入社直前 | 変更事項がないか最終確認する | 受け入れ準備の状況を確認する |
採用のたびに「そろそろ連絡したほうがいいかな」と考えるより、このような基本の流れを決めておくほうが対応しやすくなります。
もちろん、入社まで2週間しかない場合などは、この通りに行う必要はありません。期間に合わせてまとめて対応するなど、自社で続けやすい形に調整しましょう。
② 中途採用向けの内定後フォローをチェックリスト化する
連絡するタイミングとあわせて、「何を対応するか」も簡単なチェックリストにしておくと便利です。
たとえば、
□ 入社日を確認した
□ 今後の予定を本人へ伝えた
□ 仕事内容・役割を再確認した
□ 本人から質問や不安を聞いた
□ 初日の案内を送った
□ 配属先への情報共有を行った
といった内容です。
管理にはExcelやGoogleスプレッドシート、普段使っている社内共有ツールでも十分です。
紙のチェックシートのほうが運用しやすければ、無理にデジタル化する必要はありません。
大切なのはツールそのものではなく、「いつ・誰が・何をしたのか」が確認できる状態にすることです。
担当者が休んだときや、別の社員が対応を引き継ぐときにも状況がわかりやすくなります。
採用専任の担当者がいない企業ほど、個人の記憶だけに頼らず、誰が対応しても状況を確認できる形で記録を残しておきましょう。
③ 入社前の情報を入社後のフォローへ引き継ぐ
そして、内定後フォローを定着につなげるうえで考えたいのが、入社前と入社後を分断しないことです。
たとえば入社前の面談で、本人から、
「未経験の業務についていけるか不安です」
「新しい職場で、わからないことを相談できるか少し不安です」
といった話があったとします。
こうした内容は、まず本人に
「入社後のサポートに活かすため、必要な範囲で配属先と共有してよいか?」を確認したうえで、入社後のフォローに活かします。
未経験業務への不安があるのであれば、最初から一人で任せず、質問する相手をわかりやすくしておく。
質問や相談に不安があるのであれば、本人の意向も確認したうえで、上司や教育担当者から定期的に声をかける。
このように、入社前に得た情報は、入社後の関わり方を考える材料になります。
内定後フォロー → 受け入れ準備 → 入社 → オンボーディング → 育成・定着
それぞれを別々の施策として考えるのではなく、一人の社員が新しい職場に馴染んでいく一連の流れとして考えてみましょう。
厚生労働省の中途採用・経験者採用に関する指針でも、中途採用者と企業とのマッチングだけでなく、その後の定着を図るという観点が示されています。
5. まとめ|内定後フォローを「入社まで」で終わらせず、その後の定着につなげよう
中途採用者であっても、内定承諾後に新しい仕事や職場への不安を抱えることがあります。
そのため、内定後フォローは「辞退されないために連絡する」という目的だけで考えるのではなく、本人が納得して入社し、新しい職場に馴染むための準備として考えてみましょう。
必要なのは、入社までに何度も連絡することではありません。
内定承諾後には今後の予定を伝え、入社が近づいたら仕事内容や役割について認識を合わせ、初日の情報を具体的に伝える。そして、そこで得た情報を必要な範囲で配属先や入社後のフォローへつなぎます。
中小企業だからといって、大規模な内定者イベントや高額な採用管理システムを用意する必要はありません。
連絡時期を決める、メールのひな型を作る、チェックリストを共有するといった小さな仕組みでも、担当者による対応のばらつきや連絡漏れを減らすことはできます。
採用、入社、育成、定着を別々に考えるのではなく、一続きの流れとして捉えてみてください。
内定承諾は採用活動の「終わり」ではなく、新しい社員を職場に迎え、定着につなげていくスタート地点でもあります。
採用した人材の定着まで考えたい方へ

中途採用は、内定承諾や入社がゴールではありません。
入社前に感じていた不安や認識のズレを減らし、入社後も安心して働ける環境へつなげていくことが、人材の定着を考えるうえで大切です。
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